WORKS&TOPICS
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2025.09.16
COLUMN
ホテル設計で失敗しないためのポイント!流れ・費用・最新トレンドまで徹底解説

ホテルは観光やビジネスの拠点として、地域の経済や文化を支える重要な存在です。
しかし「快適さ」「デザイン性」「収益性」をすべて両立させるホテル設計は、想像以上に複雑なプロセス。設計段階での判断ミスは、完成後の運営コストや集客力に直結するため、慎重な検討が欠かせません。
本記事では、ホテル設計の基本から流れ・費用の目安、最新トレンドやタイプ別の設計ポイント、設計事務所の選び方までをわかりやすく解説します。これからホテル開発を検討する事業者の方に向けて、「失敗しないための実践的なポイント」を整理しました。
ホテル設計とは?

ホテル設計とは、単に建物をデザインするだけでなく、宿泊者の体験価値と運営効率を両立させるための総合的な計画プロセスです。
客室やロビー、レストランといった利用者が直接触れる空間だけでなく、バックヤードやスタッフ動線、設備配置までを含めて最適化する必要があります。
多面的な要素を含む計画
ホテルは「泊まる場所」であると同時に、快適性・収益性・安全性・持続可能性といった要素が複雑に絡み合う施設です。
・快適性:宿泊者がリラックスできる客室環境や、わかりやすい動線設計。
・収益性:客室稼働率の最大化、宴会場やレストランでの収益モデル。
・安全性:建築基準法・消防法・バリアフリー基準への対応。
・持続可能性:省エネ設計や環境に配慮した設備導入による長期運営コストの削減。
これらをバランスよく調整することが、設計の重要な役割となります。
設計の目的
ホテル設計の本質は、「宿泊者に選ばれる体験価値」と「運営者にとっての持続可能な運営体制」を同時に実現することです。
例えば、豪華なデザインを優先しすぎると維持コストがかかりすぎたり、収益モデルに見合わない構造になることがあります。一方、収益性だけを重視すると快適性が損なわれ、リピートや口コミにつながらなくなるリスクがあります。
そのため、ホテル設計は、空間デザインの創造性、経営上の持続可能性、そして法規制遵守を同時に満たす必要があります。
ホテル設計の流れ
ホテル設計は、建物を「つくる」だけでなく、企画から運営開始まで一貫してホテルの価値を高めるプロセスです。大きく分けると以下のステップで進んでいきます。
1. 企画・基本計画
まずは立地調査や市場分析を行い、ホテルのターゲット顧客を明確にします。
観光客向けか、ビジネス層中心か、あるいはリゾート型かによって必要な設備やサービスは大きく変わります。ここで策定する「コンセプト」が、その後の設計全体を左右します。
2. 基本設計
決定したコンセプトをもとに、建物の全体像を描いていきます。
客室数、ロビーやレストランの配置、スタッフの動線、バックヤードの機能などを計画。利用者が快適に過ごせるか、スタッフが効率的に働けるかを両立させる設計が求められます。
3. 実施設計
基本設計をより具体化し、施工に必要な図面や仕様を確定させます。
空調・電気・給排水といった設備設計、耐震性や防火性能といった安全基準の対応、内装デザインの細部まで詰めていく工程です。建築基準法や消防法などの法規制に適合させることもこの段階で重要になります。
4. 施工・監理
設計内容をもとに建築工事を進めるフェーズです。
工事が設計図通りに進んでいるかを監理し、コストや工期の管理も行います。施工段階で発生する細かな変更や調整も多く、設計者と施工者、発注者の連携が不可欠です。
5. 引渡し・運営開始
建物が完成したら検査を経て引渡し。ホテルとしての運営がスタートします。
開業後には実際の運営を通じて見えてくる課題も多いため、フィードバックを設計に反映し、必要に応じて改善や改修を行うことで、長期的なホテル経営の安定につながります。
単なる建築工程ではなく、「事業計画」から「利用者体験」までを一貫してデザインするプロセスであることが、ホテル設計の大きな特徴です。
ホテル設計にかかる費用の目安

ホテルの設計費用は、規模やグレードによって大きく変動します。一般的には 工事費の5〜12% が目安とされ、数千万円〜数億円に及びます。
・小規模(20〜30室):工事費5〜10億円 → 設計費 約4,000万〜1億円
・中規模(50〜100室):工事費15〜30億円 → 設計費 約1.2〜2.5億円
・大規模(200室以上):工事費50〜100億円 → 設計費 約3〜6億円
設計費には基本設計・設備設計・監理業務が含まれ、BIMを導入する場合は初期費用がやや高くても、工期短縮やコスト削減でメリットが期待できます。
また、土地取得費・建設工事費・家具や什器(FF&E)・開業準備費なども別途必要となるため、総予算を見据えて計画を立てることが重要です。
ホテル設計における重要な視点

ホテルを成功に導くためには、美しい建物をつくるだけでは不十分です。デザイン性・収益性・快適性・安全性・持続可能性といった複数の要素を総合的にバランスさせることが求められます。ここでは、特に重要となる5つの視点を紹介します。
デザイン性とブランディング
ホテルは「滞在する場所」であると同時に「体験を提供する空間」です。
外観や内装のデザインは、訪れる人の第一印象を大きく左右します。ブランドイメージを表現したデザインを実現することで、顧客のリピートや口コミによる集客にもつながります。
収益性
ホテル経営を支えるのは収益モデルです。
客室の稼働率や平均宿泊単価はもちろん、レストラン・宴会場・スパなど付帯施設の収益も設計段階から考慮する必要があります。効率的な客室配置や多用途に使える施設設計が、長期的な収益性を左右します。
快適性と機能性
宿泊者にとっての快適性と、スタッフにとっての働きやすさを両立させることが重要です。
・宿泊者動線:チェックインから客室、レストラン、館内施設へ自然に移動できるか。
・スタッフ動線:清掃や配膳などの業務が効率的に行えるか。
これらを両立できる設計は、顧客満足度の向上と運営コスト削減の両面で効果を発揮します。
安全性・法規制対応
建築基準法や消防法、バリアフリー基準などへの適合は必須条件です。
災害時の避難経路、防火区画、耐震性能など、安全に直結する要素は一切妥協できません。安全性を確保したうえで、快適性やデザインを両立させることが設計者の腕の見せ所です。
持続可能性(サステナビリティ)
近年は、省エネや環境配慮を組み込んだホテル設計が注目されています。
太陽光発電や高効率空調の導入、断熱性能を高めた建材の使用などにより、ランニングコストを抑えつつ環境負荷を軽減。持続可能性を意識した設計は、企業の社会的評価やSDGs対応にも直結します。
ホテル設計の最新トレンド

ホテル設計は社会の変化や旅行者のニーズに合わせて常に進化しています。ここでは、近年注目される最新トレンドを整理します。
サステナブル設計・環境配慮
省エネや環境配慮を組み込んだホテル設計は、もはや標準となりつつあります。太陽光や地熱といった再生可能エネルギーの導入や、高断熱建材の活用、廃棄物削減システムの整備などが広がり、欧州を中心にカーボンニュートラルホテルの事例も増加しています。
スマートホテル化
IoTやAIを活用した無人チェックイン、スマホによる客室操作、ビッグデータを用いた顧客分析など、デジタル化の流れは加速しています。都市型ホテルではインバウンド需要に対応するため、自動翻訳やスマートキーの導入も一般的になってきました。
地域文化との融合
バリ島の伝統建築や北欧の自然素材、沖縄やハワイの開放的な空間設計など、地域の文化や素材を取り入れたホテルデザインが注目を集めています。旅行者は「泊まる」以上の体験を求めるようになり、土地らしさの表現が差別化の重要要素となっています。
一部屋貸しスタイルの拡大
従来のシングルやツインといった客室タイプに加え、「一部屋貸し」スタイルのホテルが都市部を中心に広がりつつあります。限られた土地でも成立しやすく、コンパクトな敷地で効率的に運営できる点が評価されています。
さらに、一部屋を貸し切ることで複数人での宿泊にも柔軟に対応できるため、家族旅行や小規模なグループ利用にも人気があります。プライバシーを重視しつつ、気兼ねなく過ごせる点が支持されており、今後の宿泊施設設計における注目の選択肢となっています。海外で普及している「マイクロアパートメント型ホテル」とも通じる動きで、日本でも都市部を中心に需要が高まっています。
【タイプ別】ホテル設計のポイント
宿泊施設は立地やターゲット層によって求められる機能やデザインが大きく異なります。
都市型かリゾート型か、あるいは地域密着や一棟貸しといったスタイルかによって、設計の優先順位や工夫すべきポイントが変わってきます。
ここでは代表的なタイプごとに、設計上の特徴と利用者ニーズを整理します。
都市型ビジネスホテル
- 特徴:限られた敷地に効率よく客室を配置し、高稼働率を目指す。
- 設計のポイント:コンパクトな客室設計、シンプルで明快な動線、バックヤード効率の最適化。
- 利用者ニーズ:ビジネス利用者の利便性(駅近・スムーズなチェックイン/アウト)。
リゾートホテル
- 特徴:非日常感を演出し、滞在そのものが体験価値となる。
- 設計のポイント:眺望を活かした客室配置、プールやスパなど付帯施設、地域文化を取り入れた意匠。
- 利用者ニーズ:長期滞在やラグジュアリー志向、リピートを意識した快適さ。
地域密着型ホテル
- 特徴:地域のコミュニティや観光資源と一体化。
- 設計のポイント:地元食材を活用するレストラン、伝統工芸を取り入れた内装、交流スペースの設置。
- 利用者ニーズ:地域文化体験、観光+地域交流。
一棟貸し・一部屋貸しスタイル
- 特徴:土地規模に合わせた柔軟な運営が可能で、プライバシー性が高い。
- 設計のポイント:限られた土地を有効活用する間取り設計に加え、キッチンやランドリーを備えることで家族や小グループでも快適に滞在可能。長期利用にも対応しやすい。
- 利用者ニーズ:家族旅行や団体旅行での利用、プライベート空間を重視する層。
設計事務所選びのポイント
ホテル設計を成功させるためには、パートナーとなる設計事務所の選び方が非常に重要です。発注者のビジョンを理解し、長期的に伴走できる事務所を選ぶことが、コストや運営効率の面でも大きな差を生みます。
1. 経験と実績
ホテル案件の経験が豊富な事務所は、客室計画・動線設計・法規対応に強みがあります。実績を確認し、ホテル特有のノウハウを持っているかをチェックしましょう。
2. 企画・提案力
単なる設計図作成にとどまらず、ターゲット顧客や運営方針に合った企画を提案できるかどうか。空間にコンセプトを落とし込む力が、ホテルの差別化につながります。
3. 運営への理解
ホテルは運営段階の効率性が収益を左右します。宿泊者の快適性だけでなく、スタッフ動線やバックヤード効率に目を向けてくれる事務所が理想です。
4. 最新技術への対応
近年は BIM(Building Information Modeling) を活用する事務所が増えています。設計から施工・運営までをシミュレーションできるため、コスト最適化・工期短縮・品質向上に直結します。
5. コミュニケーション力
プロジェクトは長期戦。発注者との意思疎通がスムーズかどうかは成功の鍵です。信頼関係を築ける事務所を選びましょう。
6. アフターフォロー
ホテルは開業後も改修や改善が必要になります。開業後のサポートや追加対応に柔軟な姿勢があるかどうかも確認ポイントです。
ホテル設計のよくある質問(FAQ)
Q1. ホテル設計にはどれくらいの期間がかかる?
ホテルの規模や複雑さによって異なりますが、設計だけで6か月〜1年程度かかるのが一般的です。小規模なブティックホテルなら半年ほどでまとまる場合もありますが、大規模ホテルや複合施設を伴う案件では1年半〜2年以上かかることもあります。設計の初期段階で事業計画やコンセプトをしっかり固めておくことが、期間短縮のポイントです。
Q2. 設計費用の相場は?建築費全体の何%?
設計費用は通常、建築費全体の5〜12%程度が目安です。規模が小さいホテルほど比率は高め、大規模ホテルほど比率は低めになる傾向があります。
- 小規模ホテル(20〜30室):8〜12%程度
- 中規模〜大規模ホテル(100室以上):5〜8%程度
Q3. 小規模ホテルと大規模ホテルで設計プロセスは違う?
基本的な流れ(企画 → 基本設計 → 実施設計 → 施工 → 開業準備)は共通ですが、求められる検討の深さや関与する専門家の数が異なります。
- 小規模ホテル:オーナーの想いやコンセプトを重視したデザイン性が重要。比較的短期間で進む。
- 大規模ホテル:客室効率、運営動線、法規制、設備計画などを多角的に検討。関係者も多く、プロセスが複雑で時間も長期化。
Q4. デザイン性と収益性はどう両立させる?
デザイン性だけを重視するとコストや運営効率が犠牲になることがあります。逆に収益性だけに偏ると魅力のない空間になり、集客力が落ちます。
そのため、
- 顧客体験を高めるデザイン(心地よさ・非日常感)
- 運営を意識した効率的な設計(スタッフ動線・メンテナンス性)
を両立させることがポイントです。BIMを活用すれば、設計段階で収益シミュレーションや動線検討が可能になり、バランスの取れた計画がしやすくなります。
Q5. 設計事務所はいつの段階で選ぶべき?
土地取得や事業計画の検討と並行して、なるべく早い段階で選ぶのが理想です。設計事務所は単に図面を描くだけでなく、コンセプトづくりや事業計画の段階から関わることで、より現実的で収益性の高いホテル計画を提案してくれます。遅すぎると設計や費用の自由度が下がってしまうため、早めの相談をおすすめします。
Q6.ホテル設計に補助金や助成金は使える?
はい、条件によっては補助金や助成金を活用できる場合があります。たとえば、環境配慮型建築や省エネ設備導入に対しては国や自治体が補助制度を用意していることがあります。また、観光振興や地域活性化を目的とした補助金もあり、特に地方での宿泊施設建設では利用可能性が高いです。
ただし、制度は年度ごとに変わるため、最新情報を国土交通省や各自治体のサイトで確認し、早めに申請準備を進めることが重要です。設計事務所やコンサルタントに相談すれば、申請手続きのサポートを受けられるケースもあります。
ホテル設計を成功に導くために大切なこと
ホテル設計は「デザイン・収益性・運営効率・安全性」を総合的に調整する重要なプロセスです。どれか一つに偏るのではなく、全体をバランスよく設計に反映させることが、プロジェクト成功のカギとなります。
特に、経験豊富な設計事務所を選定し、長期的な視点で計画を進めることが不可欠です。デザイン性だけでなく、運営コストや収益シミュレーションを踏まえた計画を立てることで、開業後の安定した運営につながります。
ixreaでは、ホテルや宿泊施設の設計・プロジェクトにおいて豊富な知見を活かし、企画段階から運営を見据えたプランニングまで伴走します。BIMを活用した効率的な設計支援も提供し、発注者が安心してプロジェクトを進められる体制を整えています。
ホテル設計や設計事務所選びでお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。